社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

「今、営業で嵐山って呼ばれてるのが聞こえたから。
 いつもありがとうね、嵐山さん」
と厳しげな顔立ちの早蕨に微笑まれ、千景は、

 はっ、ありがたき幸せっ、とその場に(ひざまず)きそうになる。

 ……でも別に私が社長に買わせてるわけじゃないんですけど、と思いながら、

「あの」
と顔を上げたとき、ちょうど将臣が八十島と通りかかった。

 早蕨が将臣を振り返り言う。

「あ、社長。
 今度の秘書室の呑みなんですけど。

 嵐山さんも呼ばれてはどうですか?」

 えっ? と千景が固まり、えっ? こいつも来るんですか? と八十島が眉をひそめる。

「営業の小西さんたちも来るし。
 別に秘書室だけの呑みってわけでもないですしね」

「まあ、別にいいが。
 嵐山、どうする?」
と将臣が訊いてきた。

 わ、私に(ゆだ)ねないでくださいっ。

 ここはなんて答えるのが正解なのですかっ、と思ったとき、八十島が口を開きかけたので、

「こいつの顔なんて、呑み会でまで見たくないので、嫌です」
とか言ってくださいっ、と思ったが、八十島がなにか言う前に、遠くから誰かが早蕨を呼び、早蕨は、

「あ、じゃあ、嵐山さん。
 時間と場所は八十島さんにでも訊いて」
と言って忙しげに行ってしまった。