社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 地獄で仏っ。

 いや、この人こそ地獄の獄卒(ごくそつ)っぽいんだが、と思いながらも、やはり、知らない場所で知っている人に会うと嬉しい。

 例え相手が誰であろうとも。

 千景は思わず、八十島に尻尾を振る犬のごとく喜び、駆け寄ってしまい、

「なんなんだ、お前はっ」
と後ずさられた。

「いやーっ。
 社長に頼まれたお菓子、持ってきたんですけど。

 どうしていいかわからなくて。

 よかった。
 八十島さん、社長に渡してください」
と千景はお菓子と使わなかった二万円の入った封筒を差し出す。