社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

「さっきタクシーに一緒に乗っていったあの美しいお嬢さんは誰かと訊いてきたから、そんな奴はいないと言ったんだが」

 私は霊かなにかですか。

「お前が母を俺の愛人と間違えたという話をしたら、若く見られたと思って喜んでいた。

 お前と一緒に食事したいとか言い出したんだが。
 うちの親なんぞと食べても気づまりだろうと思って断っておいた」

 あ、ありがとうございます、と千景は頭を下げた。

 だが、将臣はそこで溜息をつく。

「……いや、断ったんだが。

 まあ、ともかく会わせろというので、今日、とりあえず、連れて行くと言ってしまったんだ。

 あの人のことだから、忘れて遊びに出かけてしまうかもしれないけどな」

 そうですか、わかりました、と千景は頷いた。

 猫屋敷に行けば、とりあえず、猫たちに会えるし。

 将臣の母はほんとうに美しく。

 いつまでも見ていたい感じの人だったから、会うのはやぶさかではなかった。

「では、なにか手土産買いに行かないとですね」