社長っ、このタクシーは譲れませんっ!




 自分のデスクに戻った千景が鉛筆を削っていると、向かいの席の武者小路が訊いてきた。

「なんでそれ、いつもカッターで削ってるんだ?」

 宿題やりたくない子どもみたいだぞ、と言われる。

「精神を統一してるんです」

 千景は削り終わった鉛筆の美しい(とが)り具合を確認したあとで、引き出しにしまい、ノートパソコンを立ち上げた。

 すごい速さで打ちはじめる。

「……なんだったんだ、鉛筆」
と武者小路が呟いていたが。

 いや、だから、精神を集中させるためだ。

 写仏と一緒だ。
 一切の邪念を捨て、集中するために……

 集中……

 しているはずなのに、ふと、将臣の母の家の美猫たちが頭をよぎった。

「でも、猫には(あらが)いがたいですっ」
と少し打つスピードをゆるめ、言ったとき、ふらりと将臣がやってきた。