社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 


 今日は社長乗ってこないな。

 朝、早くにいつもの運転手さんと出会い、タクシーに乗った千景がぼんやり通りを見ていると、将臣が美しい女性と歩道でなにか言い争っていた。

 運転手さんが、おっと、と苦笑いする。

「とめますか?」
とこちらに向かい訊いてきた。

「えーと。
 そうですね……」
と千景が迷いながらも口を開こうとした瞬間、将臣がこちらに気づき、駆け寄ってきた。

 運転手さんが絶妙のタイミングでドアを開ける。

「奥行け、嵐山っ」

 将臣は千景を押しやり、乗り込んできた。

 歩道にひとり残された長身な上に高いヒールを履いたその艶やかな美女は腕組みして、将臣を睨んでいたが。

 奥に座る千景に気づくと、あら、という顔をする。