社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 



「九条真実とは、もう長い間会ってなかったんだ。
 確か彼女が何処かの全寮制の女子校かなにかに入って、それきりだった。

 向こうだって、小さい頃会ったきりの俺との縁談なんて困るだろ」

 自動販売機で挽きたてのコーヒーをおごってくれながら、将臣が言う。

 いえ、全然困ってませんでしたよ。
 むしろ、ノリノリでした、と思っていたが、何故か口から出なかった。

 なんでだろうな、と思う。

 この人が許嫁の人と付き合うようになってしまったら、もう猫屋敷に行けなくなって。

 あと一匹、会えてない猫ちゃんにも会えなくなってしまうからだろうか。

 そういえば、タクシーにももう二人では乗れないぞ。

 千景の頭の中で、いつものタクシーに真実と三人で乗っていた。

「これ、コーヒーに合うんですよ」
と千景が渡した焼き菓子を手にコーヒーを一口飲んだあとで、将臣は言う。