社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

「嵐山に喧嘩売ってましたよ、この泥棒猫とか言って」

「……泥棒猫」

 将臣は沈黙する。

 八十島は将臣が、自分のせいで罵られた千景に対して申し訳なく思っているのだろうと思っていたが、そうではなかった。

 将臣は、心当たりのない許嫁が千景に喧嘩を売ったと言われても、ピンと来ず。

 将臣の頭の中では、千景と同じく、猫が唐草模様のほっかむりをしていた。

「なるほど、泥棒猫」
と将臣は口の中で呟き、立ち上がる。

「ちょっと出てくる」

「え? あ、はい」
と言った八十島は、嵐山のところに行くのだろうか?

 なにか修羅場かな、と思いながらも、特については行かずに、デスクに戻って仕事をした。