社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 九条真実、と口の中で呟き、将臣は言った。

「そういえば、聞いたことのある名前だな」

「……その程度なんですか。
 許嫁だと伺ったんですが」

「誰が言ってたんだ?」

「本人です」

「……本人、何処にいたんだ?」

「この会社の下に」

 うちの会社に? と将臣は首を傾げている。

 すっとぼけているのか本気なのか、と八十島がその表情を窺っていると、
「なにしに来てたんだ?」
とまた将臣は訊いてくる。