社長っ、このタクシーは譲れませんっ!




「おはよー、泥棒猫ー」

 千景が総務を訪ねていくと、デスクにいた律子が軽快にそう言い、手を挙げてきた。

「社長、許嫁がいたんだってねー」

「めちゃくちゃ広まってそうですね、今朝の話……」

「あんたたちが、あんなところで揉めるからじゃん」
と言う律子に、千景は言った。

「私、社長とはなんの関係もないですからね。
 ただ、社長のお母様のおうちの猫を拝見させてもらって。
 社長にお寿司おごっていただいたってだけで」

「いや、許嫁に睨まれるには充分でしょうよ」

 ……そうなんですかね?

 でも、あの人、ほんとうに許嫁なのかな?
と千景が思ったとき、ちょうど社長室で、八十島が将臣に訊いていた。

「社長、九条真実様をご存知ですか?
 あの方、ほんとうに社長の許嫁なんですか?」

 将臣がデスクから顔を上げる。