社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 単に、そういや、社長って、何処からあの猫屋敷までやって来てるんだろうな、と思ったからだった。

「そ……
 そんなことっ。

 知ってても教えるものですかっ」
と言う真実の顔は何故か青ざめていた。

「おい、この女、知らないんじゃないか? 戸塚の家」

 ほんとうに許嫁なのか? と容赦なく武者小路が言い放つ。

 真実は不安そうな顔で呟きはじめた。

「……わ、わたくしも信頼されていないのでしょうか?
 そういえば、将臣様が今、お暮らしになっているマンションは知りません」

 うろたえる真実が可哀想になってきた千景は彼女の手をとり、勇気づけるように言った。

「大丈夫ですっ。
 私も知りませんし、きっと誰も知らないんですよっ」

「そ、そうですねっ。
 愛人の方ですらご存知ないのですから、わたくしも知らなくていいのですよねっ」

「いや、よかないだろうよ……」
と武者小路が呟いていた。