社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 横にいた八十島が彼女を見て言う。

「この女はたぶん、生まれてこの方、名門女学校と家との往復しかしてない、箱入り娘とかいうやつだぞ」

 男なんて見たことがないんだろう、と言われ、彼女は反論する。

「見たことならありますわっ。
 男の先生もいらっしゃいましたし。

 お父様も弟も、お友だちの弟さんも、男の方ですわっ」

 そ、それはまあ、そうでしょうね……と千景が思ったとき、彼女は言った。

「そんな軽々しく男の方と口をきくようなあなたに、将臣様は渡しませんわっ」

「え、将臣サマ……?」

「わたくし、戸塚将臣様の許嫁の、九条真実(まみ)と申します」

「……八十島さん、社長に許嫁っていたんですか?」

「さあな、初耳だ」

「わたくし、昨夜、見ましたのよっ。

 あなたが将臣様らしき人影と将臣様のお母様の家から出てきて、寿司屋に行き、二人仲良く出てくるところをっ」

 ……あの、ここ、会社の前です。

「この人を殺らねば、私の会社人生、ここで終わる気がしてきました……」
と千景は呟いて、

「落ち着け。
 殺った瞬間に人生が終わるから」
ともっともなことを言われる。