社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 


「おはようございます」

 朝、会社近くで八十島を見かけ、声をかけると、八十島は返事もせずに足を速めた。

「なんなんですかっ、おはようございますっ」
と急足で追いかけ、千景は八十島の肩をつかむ。

「なんなんだっ、お前はっ。
 おはようの押し売りかっ」

「いえ、なんで逃げるのかなと思って」
と言うと、

「お前がいるってことは遅刻だろうっ」

 社長はどうしたっ? と言われる。

「社長は今日はご自宅からの出勤ですよ。
 あと、今日は私が早かっただけです」

 そうか、とまだ疑いのまなざしでこちらを見ながらだが、八十島は足をゆるめた。