社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

 


「ヘブン……なんだったんだ」

 将臣はタクシーでひとり呟く。

 天国がどうした。

「大丈夫ですか? お客さん」
と運転手さんが訊いてくれたが、はい、大丈夫です、と言って、そのまま引き返すことはしなかった。

 まあ、電話でもして、無事に着いたかどうか確認すればいい。

 そう思い、スマホを手にしたが、そういえば、千景の番号は知らなかった。

 急に不安になる。

 頭の中で、右も左も、東も西もわからぬ千景が夜の街で迷子になって、ウロウロしていた。

 だが、よく考えれば、あそこは千景の自宅周辺だったのだが……。

 将臣は、かなり迷って、八十島にかけてみた。

「八十島」
「はい」