行恵(ゆきえ)正代(まさよ)には、オレから話したぞ。もう長くないって言われたこと」



翌日病室を訪れると、携帯電話を指差しながら史郎さんが言った。



行恵と正代は私達の娘で。

ふたりとも結婚を機に家を出て行った。

長女の行恵は離婚したけれど、実家には戻らず、ひとり暮らしを満喫している。

次女の正代は近くに暮らしてはいるものの、実家に顔を出すことは少ない。



「ふたりは何て?」



「うーん、まぁな。驚いてたよ。でも葬式や墓のこともあるからな。早く伝えておいたほうが、あの子達も心の準備ができるだろう」

「葬式とか墓とか言われても……」



まだそんな話、聞きたくない。



「生前にオレが準備できることはするって伝えたけれど、行恵に叱られた」

「叱られたって?」

「『そんなこと言う前に、ちゃんと元気にならないと!』ってな」



なるほど、行恵なら言いそうだ。