史郎さんが高熱をだした。

私は何もできないけれど、眠っている史郎さんを病室にひとり残して家に帰る気にはなれなくて。

病室にずっと居たいと思った。



「何か必要なものがあったら、今買ってくるけど」



正代が私に、ペットボトルのお茶を渡しながら言った。



「いいわ、大丈夫。あなたはもう帰りなさい。百花や草ちゃんが待っているでしょう?」

「お姉ちゃんが来るまで、ここに居る。子ども達ももう大きいし、ちょっとくらい遅くても平気よ」



正代は不安そうな表情になって、
「父さんの呼吸、つらそうね」
と、言う。



史郎さんのベッドの布団を少しめくり、史郎さんの手を握る娘を見て。

今更ながら娘の存在に心強さを感じた。

娘に頼りたい、と思ってしまった。



「……怖いわ」



私の本音は頼りなく、沈んだものだった。



「母さん?」

「どうしよう、正代。私……、怖いのよ」