彼氏へ。わたしの爪と皮膚はしおりにしないでください。




「名前……で、呼んでほしい、なあー、とか、思うのですが。いかがでしょうか」

「えっ、まって、無理。かわいいな」

「……無理なの?」

「あ、ちがいます、ちがう、泣かないで。は? かわいいなほんと」

「怒ってるし……」

「半ギレだからセーフ」

「アウトだよ、ばか、むり、もう半年以上言いたくて言えなくて繰り返してたのに、むりほんと、むり……」



語彙がない。ないけど、ないけど、でも、しょうがないじゃん、くらいは思う。



しょうがなくない?



はじめての彼氏、はじめての彼氏の部屋、はじめてのキスにドキドキして、戸惑って、もうほんっとうにドキドキして、名前呼びしたいな、してほしいな、って思い続けてたんだよ。



ようやっと言えた、のに。



キスするくらい恋人として進展したなら、名前呼びもしたいなって思うようになるのは、欲張りだったのかな。



わたしにも耳としっぽが生えていたらよかったのに。



そうしたら、激ニブの星畑にだってひと目で伝わっただろうから。