「私は姉の願いを汲んで、幼いレインの元へ向かった。彼は従順に私の話す言葉を吸収していったよ。彼もまた王宮では孤独だった……近い内に友達を紹介しようと約束をして……数日後、今度は君に接触したという訳だ」

 三歳のアンの前に突如現れた黒い使者。

 叔父スウルムは既にレインに話をつけて、アンに出逢いの機会を与えた。

「リムナト王宮への道筋に湖畔への分かれ道があるね? あれはかつて風の継承者が作った抜け道だ。リムナト王家から継承者を得る場合には、あの入り口から王宮に侵入してコンタクトを取る。無論ナフィル側にも抜け道があるのだが……それを私が使わなかったのは、レインが希望したからだった」

「レインが?」

 その反応に、スウルムはやっと(おもて)を上げた。

「君の素性を知ったレインは、私にこれ以上何も話さないでくれと嘆願したのだ。生まれてすぐに母親を亡くし、近しい人は父王のみ。そんな孤独な生活の中でも、いつしか風を継承するとなれば……君にはやがて父親との別れが来てしまう。それまでレインは君に何も気にすることなく過ごしてほしいと願っていた。だから私はレインにのみ接触を図り、その後君に会いに行くことはなかったという訳だ」

 レインのアンへの想いは、母から感じた愛情にとても似ている気がした。

 異性への恋愛感情だけではない、親が子を慈しむが如き大きな愛。