──雫、という名前は、パパが付けたらしい。

美しく、時に粒となって自立し、時にはひとつの大きな存在となって、時には流される判断力も持ち合わせる、そんな女になって欲しいと。



「で、結局来るのはパパじゃないのね?」



「忙しいんだってよ、おじさん」



広いわたしの家のリビングのソファに腰掛け、優雅に紅茶を飲むその姿はまるで英国王子のようだ。……髪の色が緑でなければ。

とはいえそういう奇抜な髪色の人間を見慣れているし、わたしだって言えたことではない。



「それってつまり二乃は暇だったってこと?」



「ナメんな。暇じゃねえっつの」



二乃は早い話、わたしの父親のお兄さんの息子、つまり従兄弟である。

同級生な上に、昔から親しい仲だから、男女とか意識しない相手だ。そしてお互いになんとなく恋愛事を相談し合うし、恋愛遍歴を知っていたりもする。




「じゃあ彼女にフラれたとか?」



「よく分かったな、その通りだ」



連休最終日にわざわざ家に行くなんて言われたから、そんなことだろうとは思ったけど。

まあ、パパからも不安そうな連絡をこの間貰ったところだし、二乃を伝書鳩代わりに利用させてもらう。



「……結構大事にしてなかった?」



二乃が中1の頃から付き合っていた、ひとつ年上の先輩。

3年は付き合ってたんだから、上手くいってたんじゃないの?



「結局年下は無理なんだと」



ぐいっと、紅茶に似つかわしくない煽り方で残りを飲み干す二乃。

その瞳に紅茶が反射して、憂えたように見えた。