「遥人くんってさ……」



小さい頃は、綺麗な顔だと褒められた。

けれどそれも、髪を伸ばして顔を隠すうちに、言われなくなった。代わりに、中学生になると変人だの不潔だの言われるようになって、距離を置かれて。



「あっれー? おまえだれだっけ?」



学年でも派手な男女グループに目をつけられたハルは、一瞬にしてイジメのターゲットになった。

権力を持ったやつがそう言うと、グループ内の奴らはニヤニヤ気持ち悪く笑って、周囲は我関せずを貫いて。



「……うざ」



たぶん、母親が口うるさく容姿に口を出してきたのは、こうやって自分の子がイジメの被害にあわないようにして欲しかったからなんだろう。

……でも、それって、何の意味があんの?



無理してまできらいなものに合わせて、スムーズな人生歩む必要性って、どこにあんの?

すきに生きた方が、すこしは息が楽なんじゃないの?




「おら、早くやれって」



「おっけ」



男子トイレの個室。

昼休みはそこに籠っていたら、外から聞こえてくる声。──そして勢いよく天井から流し込まれる、大量の水。



「ッハハ、アンタらヤバすぎ」



「ヤバいのはあいつの方じゃね?

喋りもしねーし、マジであいつキモいっての」



男子トイレの中なのに、なんで女の声がするかな。

髪から滴り落ちる雫。……さいあく。



なんでここまでして責められなきゃいけないんだろう。

もしハルが女の子に生まれてたら、何もおかしくないことをしてるだけなのに。髪伸ばして、着飾りたいだけなのに。……なんでそれが、許されちゃいけないの?