◆ side遥人
この世に生を受ける時、はじめて決まるものが性別だとするのなら、きっとハルはニブンノイチの賭けを外したんだろう。
──男ではなく、女の子に生まれたかった。
中津 遥人。
それが、物心ついた時には付けられていた、自分の名前。
かわいいものが好きだった。
白、ピンク、水色、リボンにフリルに、お花にスカート。乗り物や戦隊に興味は無くて、おままごとや女の子が悪に立ち向かうアニメが好きだった。
それは所謂、"女の子向け"とされるもの。
「遥人、なんで嫌がるのよ。着ないの?」
「いらない!」
幼稚園のスモッグ。
女の子はピンクなのに男の子は青で、それさえも嫌で、親を困らせたこともあった。
幼稚園の頃はまだ良かった。
指定されたもの以外は自由にできるし、年齢故にかわいいものを着たって許された。スカートは履けなかったけど、ピンク色のTシャツを着ても、誰も何も言わなかった。
「遥人くん」
苦痛になったのは小学生の頃。
すこしずつ自我が発達して、理解できるようになって。──自分が世間とズレていることに気付くと、急に息をするのが苦しくなった。
男で、ピンクを好きなのは、変。
みんなかっこよくなりたいのに、可愛い文房具をつかいたくなるのも、長めの髪がすきなのも、変。
「遥人、そろそろ髪切った方がいいんじゃないの?」
母さんは、ハルにそう言った。
でも従いたくなかった。切りたくなかった。
きらいなものに、合わせたくなかった。