泣きそうになんて、なってない。

なのに快斗がそんなことを言うから思わず視界が滲んできて、口を塞いでいた手をぎゅっと握り締めた。



「……だれにも言わないでよ」



「誰に言うんだよ」



「わかんない。

まつりたちに言うかもしれないじゃない」



「言うわけなくね? お前が…………、

嫌がんのわかってんだから、そんなことしねーよ」



「いまの不自然な間はなに?」



こぼれずに耐えていたはずの涙が、ぽろっと一粒おちる。

一度崩れてしまえば、そこから幾つも滴っていく。快斗がわたしの涙を指で拭ってくれたとき、コンコンとノック音がした。




……っやばい!!



「快斗、雫ちゃ……」



「………」



「………」



3人の間に流れる沈黙。

そして静かに「快斗」を呼ぶ、彼のお母様。



「っ、あの、違うんです……!

快斗に泣かされたわけじゃなくて、っ、」



間違いなく誤解されてる。

慌てて弁解するわたしに「あらそうなの?」とすこし表情をゆるめるお母様。よかった、わかってもらえそうだ。