「雫」



名前を呼ばれるけれど、返事ではなく身体を起こして「そのまま話を続けて」と態度で促す。

それが伝わったらしく、快斗は「悪い」と小さくつぶやいた。



「ンな怖がらせるつもりはなかったんだよ」



「、」



……やっぱりバレてたか。

言葉で心までは騙せても、身体に無意識に起こる震えだけはどうやったって止められなかった。……震えるほど自分のことが可愛いなんて、思ってないのに。



「平気だから。……気にしないで」



わかってる。

わかってるのよ、本当は。




「雫、」



「ほんとに平気。

なんだっけ、わたしさっき何か言いかけたわよね」



越以外の人に誰かに、触れられたくない。

たとえどんなに好意を抱かれても、誰とキスをしても、わたしに触れるのは越だけでいい。



それを、ほかの人といることで思い知るなんて、馬鹿みたいな話。

でも会いたいなんて言ったら、わたしの負けみたいじゃない。惚れた方の負け、なんて、ほんと、その通りで。



「あ、思い出した。あのね、この間──」



手で、口を塞がれる。

強くないその手を振り払うことなんて容易いのに、わたしよりも快斗の方が悲痛な表情をしていたから、できなかった。



「そんな泣きそうな顔して無理に笑うなよ。

……おれが泣かせたようなもんだけど」