だめだ、もう遅かった。

ひらりとしずくんに近寄った千鶴さんは、彼女の細い両手を握って、嫌味の感じない甘い顔で声を掛ける。まつりんが引き剥がそうとしたけど、それを避ける千鶴さんの身の躱し方はまだまだ現役だ。



「はじめまして、東山 雫です。

……ちょっとまつり。邪魔だから退いてくれない?」



「、」



そして姫は誰よりも強い。

今までまつりんと千鶴さんの攻防をものともせず、雫ちゃんは「ごめんなさいまつりが」と謝ってる。



「っ、く、ははっ……

おまっ、どんな女連れてきたかと思えば、」



左助さんは爆笑してるし。

一緒におりてきた稜くんとすぐりんも口を挟めなくて困ってる。なぁに、このカオス空間。



ぼく巻き込まれたくないなー。

ちょっと柱の影とかに隠れといていいかなー。




「いい女連れてきてんじゃねえか、まつり」



「……お前に言われたくねえんだよ」



「雫ちゃんって言うんだ、名前もかわいいね。

よかったらこの後俺とお茶でもしない? おすすめの、」



「俺の女だっつってんだろ」



あ、千鶴さん負けた。

しずくんを無事に取り返したらしいまつりんは、ため息をつきながらしっかり彼女を腕でホールドして、「何しに来たんだよ」と一言。



「女に興味の無ぇ7代目が、姫なんか立てたって噂になってるからな。

どんな女に引っかかったのか笑いに来てやるつもりだったのによ」



ポケットから出したタバコに、徐に火をつける左助さん。

もうかいくんのことで見慣れてるからいいけど、左助さんもまだ未成年だよね?こないだ高校卒業したよね?