「稜くん、まつり呼んできたわよ」



「おかえり、ありがとう。

あの部屋には雫ちゃんしか入れないからね」



「ふふっ、ノックなら稜くんでも出来るじゃない」



幹部が揃う幹部室にまつりと戻ると、稜くんこと、井瀬谷(いせや) 稜介(りょうすけ)くんは、優しく微笑んで迎えてくれる。

彼はまつりの幼なじみらしく、カリスマ性を持つトップのまつりと、頭が良くて切れ者の稜くんが副総長を務めている彼岸花は、最強。



そしてその稜くんが言う通り、ここ彼岸花のたまり場には、まつりの部屋があって。

いわゆる総長室って呼ばれるそこは、まつりと、恋人である姫のわたししか入ることができない。



……まあ、そういうしきたりなだけで。

内側から鍵がかかるだけの普通の部屋だから、出入りしようと思うと誰でもできる。



けれど彼等はそれをすごく正しく守っているし、わたしもそれに従っているだけ。

姫がわがまま過ぎると、みんな困っちゃうでしょ?




「俺に呼ばれても、まつりは嬉しくないよ。

雫ちゃんだからすんなり来てくれるだけで」



「そう? そんなに変わんないと思うんだけどな」



言いながら、ソファに腰掛ける。

"お茶しよう"と言ってくれてただけあって、すぐに稜くんが温かい紅茶の注がれたカップをわたしの前に出してくれた。



ちらりと隣を見れば、マグカップに淹れられたブラックコーヒー。

……甘いの苦手だもんね、まつり。



(さき)ちゃん、それ何食べてるの?」



「んっとねーえ、くっきー」



ひと足早くお茶をはじめていたうちの、ひとり。

(やなぎ) 咲耶(さくや)くん。略して咲ちゃん。女の子をメロメロにするベビーフェイスで、どうして彼がこのチームにいるのか、未だに謎である。