言えば、彼女は不思議そうにきょとんと首をかしげる。

それから何が面白かったのか、くすくすと笑って。



「でも稜くん、何もしないでしょ?

わたしが、大事な幼なじみの彼女だから」



「……まあそうなんだけどさ」



まつり、ではなく、大事な幼なじみと言ってくるあたり、俺の心情をよく分かっているというかなんというか。

……無防備だなぁ。まつりの彼女じゃなかったら、俺絶対この場で手出してると思うもん。



「あ、ごめんね、お茶も何も出してなくて。

雨で冷えちゃったから、温かい紅茶でも淹れようか?」



「ううん、そろそろ帰るよ。

話聞いてくれてありがとうね。……あと、」



「まつりには内緒、でしょ? わかってるわよ」




くちびるに指を当てて、し、と内緒のジェスチャーをする彼女。

……なんでこんなに絶妙に気持ちを擽られるような言動ができるんだろう。確実に男心を突いてくるよね。



「うん、じゃあまた」



「気を付けてね」



ひらり。

玄関で彼女に手を振られ、軽くそれに応えて、彼女の部屋をあとにする。惜しまれるようなことは何もなかったけど、まつりには色々と黙っておこう。



「ただいま」



家に帰れば、いつものように母さんに「おかえり」と言葉を返される。

何も代わり映えしない、俺の日常生活。



俺は、大事なものを守れるようになっただろうか。