◇
「雫」
驚きを通り越して泣き出す女の子たちもいた教室から、幹部に囲まれた状態で連れ出され。
向かった先は旧図書室。入ってすぐに舘宮くんに名前を呼ばれ、昨日お昼を食べたスペースではなく、奥へと促された。
素直に従って奥に向かうと、物置と化している奥側はかなり埃っぽい。
手前側の本棚は空っぽだったけれど、奥には移さないと決めたらしい書物が残ってる。おかげで図書室らしい、独特の匂いが鼻腔を掠めた。
「……ごめんな」
「え?」
開口一番、謝られて瞬く。
いつも凛としているその瞳は、言葉通りとても申し訳なさそうにわたしを見つめていて。
見慣れないそれに、一瞬だけ、心臓が揺れる。
何に対しての「ごめん」……?
「お前が"いい"と言ったのは事実だが、
何も伝えないまま巻き込んでごめんな」
「なんだ、そんなこと?」
「"そんなこと"って。
お前、姫にするって言葉の意味わかってねえだろ」
すこしため息を吐いた舘宮くんは、姫は総長の彼女という立場にのみ適応されるということ。
そして、その姫にわたしを任命した以上、わたしたちは付き合っている関係性であり、幹部やチームから守られる存在であることを教えてくれる。
もちろんだが、わたしはそれを知っている。
……だってわたし、朝顔の姫だし。
「……つまり、わたしと舘宮くんは付き合ってる」
さっきのキスだって、その見せつけのため。
浮気と言われたらそれまでだけれど、ハニートラップを仕掛けるんだから、越はそれを黙認してる。