「雫」



驚きを通り越して泣き出す女の子たちもいた教室から、幹部に囲まれた状態で連れ出され。

向かった先は旧図書室。入ってすぐに舘宮くんに名前を呼ばれ、昨日お昼を食べたスペースではなく、奥へと促された。



素直に従って奥に向かうと、物置と化している奥側はかなり埃っぽい。

手前側の本棚は空っぽだったけれど、奥には移さないと決めたらしい書物が残ってる。おかげで図書室らしい、独特の匂いが鼻腔を掠めた。



「……ごめんな」



「え?」



開口一番、謝られて瞬く。

いつも凛としているその瞳は、言葉通りとても申し訳なさそうにわたしを見つめていて。



見慣れないそれに、一瞬だけ、心臓が揺れる。

何に対しての「ごめん」……?




「お前が"いい"と言ったのは事実だが、

何も伝えないまま巻き込んでごめんな」



「なんだ、そんなこと?」



「"そんなこと"って。

お前、姫にするって言葉の意味わかってねえだろ」



すこしため息を吐いた舘宮くんは、姫は総長の彼女という立場にのみ適応されるということ。

そして、その姫にわたしを任命した以上、わたしたちは付き合っている関係性であり、幹部やチームから守られる存在であることを教えてくれる。



もちろんだが、わたしはそれを知っている。

……だってわたし、朝顔の姫だし。



「……つまり、わたしと舘宮くんは付き合ってる」



さっきのキスだって、その見せつけのため。

浮気と言われたらそれまでだけれど、ハニートラップを仕掛けるんだから、越はそれを黙認してる。