ガチャッ、と勢いよく開けた扉の奥。

ベッドに腰掛けてスマホを見ていたその目が、すこしだけ和らいでわたしを見た。



(しずく)



「何してたの?」



後ろ手で扉を閉めて、彼の元に歩み寄る。

そうすれば彼はスマホの液晶を下にして、それをベッドサイドのテーブルに置いた。



「チームからの連絡だ。大したことじゃねえよ」



「そっか」



頭を撫でられて、彼を見上げる。

舘宮(たてみや) まつり。困っちゃうぐらいに綺麗な顔をしたこの男は、わたしの恋人。




関東には、暴走族のチームがいくつも存在する。

そのうち、南側のすべてのチームを統べているのが、暴走族彼岸花(ひがんばな)。まつりはその彼岸花の7代目総長であり、つまりはとっても、強いってこと。



「何か用事があったのか?」



「ううん、みんなに聞いたらまつりは部屋に行ったって言うから。

わたしのこと置いてくなんてさみしいなと思って」



「ああ、悪いな。すぐ済ませて戻るつもりだった」



まつりの彼女。イコール、彼岸花のお姫様。

南連合から護られる立場にあるわたしを、彼岸花のメンバーは大事にしてくれる。



「はやくもどろ?

(りょう)くんが、お茶でもしようって」



まつりを呼びに来た理由を思い出して、彼の手に触れる。

そうすれば「わかった」とまつりがベッドから立ち上がって、置いたばかりのスマホを制服のポケットに入れた。