そんな焦りから出たのは、
「先輩、ここ。この問題だけ教えてくれませんか?」
ほんの僅かな時間、先輩を引き止める言葉。
たった1問で何も変わらないことは私が一番よくわかっていた。
それでも、気持ちを落ち着かせる時間が欲しかったのだ。
これを解き終わったらさり気なくチョコを持ち出して、先輩を下まで見送る!
あくまでも自然に。
「奈子。そこならあとで俺が教えてやるよ」
「お兄ちゃん数学苦手でしょ」
「じゃあ1問だけな」
そんな先輩の優しさに甘えたせいで……。
「三宅先輩、今日はありがとうございました」
自動販売機で飲み物を買いに行くついでに下まで三宅先輩を送ってくる。
そう言ってなんとか2人きりなった。
見えないよう後ろ手に小さな箱を抱えて。
「どういたしまして」
「あの、」
「ん?」
「い、いつもお世話になってます的なあれで決して変な意味はなくて……そのバレンタインも過ぎちゃったし……あのー、たくさん作ったんで!」
そう言って当日には渡せなかったチョコを先輩に差し出す。



