「もうすぐ卒業だな」


帰り道、先輩が不意にそう言葉にした。

「そうですね」

「結局、奈子だけは最後まで敬語で先輩呼びか」

隣を歩く先輩がどういう顔をしてそんなことを言っているのか確認する勇気もなく、ただただ地面に視線を落とす。


「……先輩は出会った時から先輩なんで」




私が三宅先輩に出会ったのは中学3年生の頃。

お兄ちゃんがうちに連れてきたのがきっかけだった。


「あ、(さとる)の妹?」

泥まみれの練習着で現れた兄の友達は私を見るなり「ずっと会いたかったんだ」そう口にした。


別にからかった様子でもなく、ただ自然に口から出た。そんな風に。


部活のあとに夕飯を食べに来たり、休みの日はお兄ちゃんとうちでゲームをしたり。

元々、私とお兄ちゃんは仲が良く、先輩を含め3人で出掛ける日も多くなっていった。


気づくと、いつの間にか三宅先輩がいる日常が当たり前のようになっていたのだ。


「奈子」そう呼ばれるたびに鼓動が早くなるのを感じ、その気持ちが恋だとわかるまでそう時間はかからなかった。


そして、三宅先輩を追っかけるように入学した高校で先輩の人気を思い知ることになる。