「ごめんなさい、先輩ごめんなさい」

何度謝ったって、事故の前には戻らない。

呼吸もできなくなるほど泣きじゃくる私に先輩は「奈子のせいじゃないよ。信号無視した運転手が悪いんだから」そう背中をさすりながら声をかけてくれた。

気にすんな。と何度も何度も。



その日、私はお兄ちゃんに支えられるようにして病院をあとにした。


「お兄ちゃん……先輩の怪我ちゃんと治るよね?」


「当たり前じゃん。見たろ?あいつの元気そうな顔」


「治ればまたサッカーできるよね」


その問いにお兄ちゃんはピタリと足を止めた。

お兄ちゃんの目にはうっすらと涙が浮かぶ。

ああ“元通り”になんてならないんだ。


私が……。

私が先輩から大切なものを奪った。


私があんな我儘を言わなければ今日も先輩は校庭でボールを追いかけていたに違いない。


「私のせいで」

「違う!あの日俺がうちに連れてきたせいだ。奈子は悪くない」

「引き留めたのは私だもん。あんなことさえしなければ」

そう何度も叫び泣く私をお兄ちゃんは強く強く、力いっぱい抱きしめた。



苦しいのは、痛いのは、私じゃないのに。

優しくされる筋合いなんてないのに。