「え、まじか」

先輩はそのチョコを手に取ると少しだけ驚いたような表情を見せた。


「実はちょっと期待してた」

「え?」

「悟が奈子からチョコ貰ったってわざわざ俺に言うから。てっきり俺の分もあるもんだと思ってた」


「先輩、彼女いるし渡していいのか迷ってて……」

「あー……そっか。気遣わせたな。ありがとう大事に食べる」


「は、はい……!」


帰っていく先輩の背中を見送り、自動販売機には寄らず真っ直ぐうちに帰る。


渡せたっ!渡せたっ!なんて浮かれていた数時間後だった。





先輩が事故に遭ったと知ったのは。


うちの近くの交差点。

そこで信号無視の車に撥ねられた先輩は大怪我を負い、病院に運ばれた。


事故後すぐに会いに行くことはできず、数週間後顔を会わせた先輩は頭に包帯を巻き、足にはギプス、そして顔には無数の傷を負っていた。


ひと目見ただけで、事故の衝撃がどれほど大きなものだったのかがわかる。


私が引き留めなければこんなことにはならなかった。

事故直前の記憶が曖昧だと言う先輩に私は自分が引き留めたことを話し、何度も謝った。