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 ウィリアムとの悲しい別れから約四年。
 子供だったあの頃から少女へと成長した私は、小柄ながらにもその身体つきは丸みを帯び、まだその表情にはあどけなさを残しつつも、立派な大人の女性へと変わりつつあった。

 今年の秋に十六を迎える私は、その年に年に一度行われるデビュタントへ向けて、毎日のようにダンスの練習に明け暮れている。時折、様子を見に来てくれる兄に付き合ってもらっているお陰か、ここ最近ではだいぶミスもなく踊れるようになってきた。
 これなら当日もなんとかなるだろうと、少しの自信とともにホッと安堵の息を吐く。私が失敗をすることで、エスコート役である兄にまで恥をかかせたくはないのだ。


「お兄様。お付き合いしてくださって、ありがとう」

「リディの為なら、いつだって付き合うさ。……さぁ、もうダンスの練習は終わりにして、一緒に庭でお茶でもしよう」

「もう少し、私は残ってダンスの練習をしようと思うの。でないと、当日失敗してしまうのではないかと心配で……」

「失敗したって構わないさ。それくらいは、俺がいくらでもカバーするつもりでいるよ」

「でも……」

「リディは、兄である俺のことが信用できないと……?」

「──!? いいえ、そんな事は……っ! お兄様のことは、とても信用しているわ!」


 慌てる私を見て、クスリと声を漏らした兄。


「それなら、もう今日はダンスの練習は終わりにしよう。一人寂しく午後を過ごす兄に、どうか少し付き合ってはくれないか?」


 そう告げながら右手を差し出した兄は、優しく微笑むと私の様子を伺う。そんな優しい兄の心遣いに感謝しながら、私は差し出しされた右手にそっと自分の手を添えると微笑んだ。


「ええ、喜んで」


 優しい兄や両親の愛情に包まれ、私はこうして毎日穏やかな時を過ごせている。あの悲しい出来事を乗り越えられたのも、そんな三人の温かい愛情があってこそだった。
 元より優しかった兄は、悲しむ私を心配して毎日のように会いに来てくれると、何も聞かずにただ寄り添ってくれた。そんな兄には、本当に感謝してもしきれない。

 私の隣で優しく微笑みながら歩く兄の姿を見て、そんな兄のことを誇らしく思うのと同時に、ユリウスが私の兄でいてくれて本当に良かったと、そう心から思ったのだった。