「……モカちゃんママ、モカちゃんパパ。いろいろやってくださってありがとうございました、本当に助かりました」
「私たちは全然大丈夫。だけど芭奈ちゃん……大丈夫?」
私は、モカちゃんママとモカちゃんパパにお辞儀をすると家に入った。
部屋は何ヶ月も帰っていなかったんじゃないかってくらい静かな空気が流れている。
「……ただいま」
そう言っても、誰もおかえりって言ってくれる人はいない。笑顔で迎えてくれる人は……この家には存在しないんだ。
・
・
今から二日前のこと。
「――芭奈ちゃん、今からさくらまち総合病院に行くよ。貴仁さんと結花さんが事故にあったんだ」
お父さんと、お母さんが……事故?
私は旅行に行った両親を見送った後、モカちゃん家でお世話になっていた。だけど帰ると言った時間になっても帰ってこないし連絡も取れなかった。
「モカちゃんパパ、お母さんたち大丈夫なんですか……?」
「わからない。急いで来て欲しいと言われただけだから」
「そう、ですか……乗せていってください。よろしくお願いします」
私は頭を下げると、モカちゃんパパが「もちろんだよ」と言ってくれた。モカちゃんとモカちゃんママはお留守番だ。
モカちゃん家からさくらまち総合病院までは一時間もかかる。さくらまち総合病院とは、県内屈指の施設やエリート医師が勤めている病院だ。
それに救命救急科がある病院で有名だ。その救命救急科へ搬送されたと連絡があったそうだ。
「芭奈ちゃん、先に行ってきな。あの緑で光ってるとこが入り口だから」
「はい、ありがとうございますっ」
「俺も後で行くからね」
私はモカちゃんパパの車を降りれば緑色で『救急科 入口』と光っている場所に向かう。遠くから救急車の音が聞こえてきた。それが私の不安を誘ったが、小さく深呼吸をしてから病院内に入るとすぐ、受付がありそこにいたお姉さんに「木島貴仁と結花の娘なんですが」と伝える。