「え! 弘人さんたち、海に行ったんだ! 響生~! 俺たちも行こうよ~!」

「今からならまだ、追い付けるかもしれませんね、風吹」


 どうやら二人は、海へ行く事にしたようだ。楽しそうにバイクに乗り去って行く風吹と響生を見送ると、俺はまた藍乃と向き直る。

 海藤兄弟とのやり取りの間もずっと、藍乃は俯いてまるで石のように固まっていた。


「――で、藍乃。さっきの続きだけど……」

「ううん! もういい! 大丈夫!」

「はあ?」


 藍乃はパッと顔を上げ、笑った。


「全然、問題無し! さ、凪、帰ろ! こんな暑い中いたら干からびちゃうよ! それに私、お腹空いちゃった!」


 ……何なんだよ、一体。急に泣き出したかと思えば、今度は腹が減ったとか。

 全然意味が分かんねえ。


 呆然とする俺を置き去りにして、藍乃はさっさとヘルメットを被ると停めたままだった俺のバイクの後ろに、慣れた動作でまたがった。