「ああ、残念……逃げてしまいましたね、風吹」

「しかたないっしょ、響生。女の子の前じゃあ殴れないし~」

「ですね……まあ、あれだけ脅しておけば小者ならもう来ないでしょうし、それ以外ならまた会えます」

「俺は会いたくないなぁ~」


 二人は揃って声を上げ笑った。

 自分の代になって、俺は一つだけ不知火の(おきて)を追加した。

 それは――女子の前で過度な暴力は振るわない、という事。

 暴走族なんてやっていると、喧嘩や暴力は切り離せない。だけどそれを、女の前でやるのは嫌だった。暴走族なんてやっていながら温いと言われるだろうが。

 藍乃には、そんな汚いものは見せたくなかった。

 幸い、幹部のみんながこうやって理解してくれるから、下の者たちも何だかんだで掟を守ってくれているようだ。


「――じゃあ風吹、響生、俺たちは帰るが、お前らはどうすんだ? 弘人たちは海へ遊びに行ったから、今日はここへは帰らないと思うが……」


 未確認の敵を取り逃がしてしまっては、もうどうしようもない。確認する術もないから、俺は帰る事にした。弘人にも後で言っておこう。

 それに、話が途中になってしまっている藍乃の事も気になるし……

 相変わらず藍乃は俯いたままだ。