「それが、ちょっと分かんないんですよね~」


 風吹がばつが悪そうに頭を搔きながら言った。


「分からない? お前でも知らないのか」

「ムチャ言わないでくださいよ、凪さん~! いくら俺でも、全部の族は把握できませんって~!」


 風吹は記憶力が良く、結構な数の族の情報を記憶している。それなのに、その情報網に引っかからないという事は、気にする程もない弱小の族か、比較的新しい族ぐらいか。


「では、直接聞けばいいのではないですか?」


 響生がそう言いながら、地面にひれ伏している男の髪の毛をぐいと掴んだ。でも、その手を風吹が掴む。


「ダメだよ~響生」

「なぜです? 一、二発くらわせた方が口も軽くなるでしょう、風吹」


 風吹は響生の言葉に無言で首を振り、視線を俺の方へ向けてきた。同じように響生も顔を上げる。しかし、見たのは俺ではなかった。

 俺の向こうにいる、藍乃だ。


「ああ、藍乃さんがいたのですね。これは失礼しました」


 響生は納得したように男の髪を掴んでいた手をひいた。風吹もすぐに手を離す。

 すると男はこの機を逃すまいと、脱兎のごとく走り出し、甲高く情けない悲鳴を上げながら逃げてしまった。