藍乃の両親が到着したのは、すぐだった。

 母親の方は取るものも取り敢えず駆けつけた感じだが、父親はスーツ姿。もう夜の十時を過ぎているが、もしかしたらまだ仕事中だったのかもしれない。

 二人が近くまで来ると、俺も立ち上がった。


「――凪君、連絡してくれてありがとう。藍乃は?」


 父親が俺に話しかけてきた。


「そこの処置室です」


 俺が言うやいなや、母親は部屋に入っていってしまった。父親も行こうとしたが、途中で何かに気がついたのか、足を止め戻ってきた。


「待っていてくれてありがとう。でも時間も時間だ、凪君はもう帰りなさい。これを……タクシー代に」


 そう言いながら、財布から一万円札を取り出した。

 俺はそれを受け取らなかった。貰う理由は無いし、それに帰るなら弘人にでも電話すれば迎えにくらい来てくれるだろう。

 そんな事より……


「金はいりません。それより、ここで待たせてもらっていいですか? 俺も……藍乃がどうなったのか知りたいです」

「……分かった、後で話そう」


 父親も処置室へ入っていった。







 それから何分くらい過ぎただろう。体感的には3時間ぐらい経ってる気がしていたが、スマホの時計を見たら三十分程度だった。

 処置室から出てきたのは、医者と看護師と父親の三人だけ。どうやら母親は中に残ったみたいだ。