職業柄つい宝物庫を想像してしまい、うっとりとため息をつく。

のんきな性格だからなのか普段からあまり動じないオデットは、この状況に不安を覚えるよりも楽しみ始めた。

(お城に入れてもらえるなんて貴重な経験だわ)

門兵の立つ正門をくぐってもまだ馬車は止まらず、数分してやっと五階建ての大邸宅前で下ろされた。

豪華な廊下や階段を官人について進み、三階の一室の前で立ち止まる。

そのドアを官人がノックしたが返事はなく、「こっちか?」と独り言を呟いて今度は向かいのドアを叩いた。

すると中から「どうぞ」と男性の声がして、ドアノブに手をかけた官人がオデットに注意する。

「王太子殿下に失礼のないようにな」

「は、はい」

いよいよ対面となったら、のんき者でもさすがに緊張する。

官人が一礼して入室し、鼓動を高鳴らせたオデットもそれにならった。

病に伏していると聞いているので寝室かと思いきや、ここは執務室だ。

家具がダークブラウンと白で統一された落ち着きのあるしつらえで、壁際には書棚と柱時計、火の入っていない暖炉があり、暖炉の前に休憩用のソファセットがある。