先ほどの客対応のように、オデットはたびたび特殊能力を発揮して宝石に込められた持ち主の想いを紐解いてきた。

それにより救われたと感じた客もいて噂が立ったのだろう。

驚いたオデットは、胸の前で両手のひらを振る。

「私にはお医者さんのような真似はできません。鑑定できるのは宝石だけですから」

「それでもいい。とにかく一緒に来てくれ。手ぶらでは城に戻れん」

どうやら官人もオデットが役立たないとわかって言っているようで、王太子のために動いている姿勢を見せなければ誰かに叱られるのかもしれない。

「さあ、この娘を馬車に」

命じられた騎士はオデットの手首を掴んでカウンター裏から引っ張り出すと、そのままドアへ向かう。

まるで連行されているようだとオデットは戸惑いつつも、呆気に取られているブルノに出がけの挨拶をする。

「ブルノさん行ってきます。紅茶を淹れられなくてごめんなさい」

「あ、ああ。紅茶は自分でやるから構わないよ。気をつけてな」

五月のよく晴れた空はサファイアのように透明感のある水色をしている。