「私は王城で官職に就いている者だ。実は――」

用件を切り出そうとした官人は、カウンター裏からひょっこり顔を覗かせたオデットに気づくと、ブルノを押しのけるようにしてつかつかと近づいた。

「君がこの店のもうひとりの従業員か?」

「はい。そうですけど……」

目を瞬かせているオデットをまじまじと見て、なぜか官人は眉を寄せる。

「若い娘だと聞いてはいたが、子供みたいな顔だな。賢そうでもないし、本当にこの娘が?」

垂れ目で柔和な顔立ちとおっとりした性格のせいで、見くびられがちである。

それを自覚しているオデットなので官人の失礼発言には少しも腹を立てず、ただ不思議に思って問いかけた。

「あの、私になにかご用でしょうか?」

ハッとした官人は口元に拳をあてて咳払いすると、気を取り直したように頼みごとをする。

「実は王太子殿下がひと月ほど病に伏しておられる。城医をはじめ名立たる医者どもは原因不明だと情けないことを言うので、こうして治療できそうな者を探し歩いていた。君には不思議な力があると聞いたぞ。王城へ同行願いたい」