没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「たしかに挙式も幸せだったが、もっとオデットの記憶に残る瞬間が、この後に待っているんだよ」

「この後、ですか?」

舞踏会に余興は用意されていないはずで、挨拶回りとダンスを繰り返し、零時になったらお開きの予定である。

オデットが目を瞬かせたら、ジェラールがダンスに適切な距離まで体を離した。

「わからない?」

シャンデリアを映した琥珀色の瞳が蠱惑的に細められ、オデットの鼓動を高まらせる。

「オデットがこの屋敷で暮らし始めて三か月、俺は随分と悩ましいひとり寝の夜を過ごしてきた。だが今宵やっと、苦しい我慢から解放される。ああ、早く舞踏会が終わらないか。真新しい夫婦の寝室を使うのが待ちきれない」

「あっ……」

そこまで言われてやっと意味を理解したオデットは、たちまち耳まで赤くなった。

「まさか、夜のことを忘れていた?」

「いえ、あの、覚えてはいたんですけど――」

初夜について考えたら心臓が持ちそうにないので、できるだけ頭の隅に追いやっていた。

今日はここまで過密スケジュールで、失敗のないよう妃の務めを果たすのに精一杯だったというのもある。

「可愛い妻だ」