没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

これが食べたいと指をさせば使用人が取り分け、『お嬢様どうぞ』と渡してくれるので、背中にむず痒さを感じる。

ロイはルネの隣で肉汁したたる絶品ローストビーフを頬張っていて、これで肉料理はほとんど制覇したのではないだろうか。

「ロイ、そんなにがっつくんじゃないわよ。恥ずかしい」

ルネが呆れて注意すると、ロイがソースで汚れた口を尖らせた。

「だって食べるしかすることないし、美味しいし、仕方ないだろ」

「あんたも踊る?」

「踊るなら相手はルネしかいないだろ。自分だって踊れないくせに、なに言ってんだよ」

たしかにその通りだ。

ワルツの輪に入っていけず、オデットとジェラールは忙しそうなので話しかけにいけない。

ブルノは招待客のバロ司教とワイングラス片手に談笑していて、ルネも食べる以外にやることがなかった。

(でも、ロイががっついている理由はそれだけじゃないわよね。まったく、いい加減に気持ちを切り替えてオデットを祝福してあげればいいのに)

ロイはふてくされた顔をしてホールの中央を見ていた。

挨拶回りに忙しそうだったオデットとジェラールが、今やっとダンスの輪に加わったところだ。