没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「許しがたい所業だが、そなたには恩もある。長年、わしの補佐を務めてくれたことに感謝する。今後は己の領地に戻り王都に出向かぬように。穏やかに余生を過ごすといい」

政界からの引退のみで刑罰を与えないのは、かなりの温情と言えよう。

ホールに飛び交うヒソヒソ声はざわざわと大きくなる。

王太子妃問題に偽聖女、宰相の失脚にレオポルド派の貴族の政界復帰と、重大な変化がありすぎて貴族たちが受け止めるには時間が必要なようだ。

インペラ宰相はゆらりと立ち上がると、肩を落としてドアへと向かう。

「お父様……」

縋るような目をしたマリエルが後を追おうとしてふらつき、ステージを踏み外した。

ブレスレットの度重なる使用で衰弱している上に、父親に否定されたショックもあってまともに歩けないのだろう。

近くにいた女性たちが驚いて悲鳴を上げたが、インペラ宰相の耳には入っていないようで振り返ることなくホールを出ていった。

最初にマリエルに駆け寄ったのはオデットだ。

焦って膝をつき、細い体を抱き起そうとしたら、赤い雫がポタポタと床に落ちた。