没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

鬼の形相で振り上げた拳にオデットが悲鳴をあげたら、腕を強く引っ張られて体が後ろに傾いた。

すっぽりと収まったのはジェラールの胸の中で、宰相の拳は空を切る。

ホッとしたのは一瞬だけで、今度はステージ下から国王の怒声が轟いた。

「騎士を呼べ、無礼千万なその娘を連行しろ! サラ様は聖女だ。わしは喉から手が出るほど聖女が欲しい。聖女サラ様を認めない者は全員投獄する!」

マリエル自身が偽聖女だと認めたというのに、なにを言い出すのか。

貴族たちは国王の乱心に驚き戸惑っているが、その理由を知っているジェラールは慌てず、しかし険しい顔をしてステージを飛び降りると父親に駆け寄った。

「父上、目を覚ましてください」

国王の上着の袖についているのは、ターコイズのカフスボタン。

ジェラールが力尽くでそれを引きちぎり、床に投げ捨てると、国王がハッと我に返った。

「わしは一体……」

憑き物が取れたような顔で周囲を見回した国王だが、記憶はあるようだ。

額に片手をあてて青ざめ、自身の言動を信じがたい思いで振り返っているような雰囲気である。