没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

ジェラールが突きつけた左腕を下げたので、オデットは急いでハンカチを取り出して手当てする。

「ありがとう。かすり傷だよ、心配しないで」

袖を下ろして傷を隠したジェラールは嘆息し、いくぶん厳しさを解いた声でサラに命じる。

「誰に指示されたのか言いなさい」

「私がひとりで考えてやりました。いい暮らしがしたいと思い――」

「嘘を重ねても意味はない。すべて調査済みなのだよ、マリエル・アシュリーさん」

青い目を大きく見開いたのが、名前も偽っていた証拠だろう。

ステージ上の会話をよく聞こうとホールはまた静かになり、ジェラールが貴族たちに顔を向けた。

「皆さんにも順を追ってご説明しましょう。ことの始まりは私の妃選びでした」

妃候補者が何人も名乗りをあげる中、ジェラールが国王に紹介したのはレオポルド派とみなされているログストン伯爵令嬢、オデットだった。

オデットを妃とすれば、レオポルド派を許したと思われても仕方ないことである。