没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

貴族たちは黙して推移を見守り、その中でジェラールが上着のポケットから肉料理用のテーブルナイフを取り出した。

なにをするのだろうとオデットが首を傾げたら、袖を捲ったジェラールが突然、自身の左腕を切りつけた。

血が流れるほどでなくても痛そうな赤い線が腕に引かれ、オデットは悲鳴を漏らした。

「大丈夫だよ」

ジェラールはオデットに優しく微笑みかけてから、厳しい視線をサラに向けた。

「さあ、この傷を治すんだ。先ほどの哀れな使用人に比べればこの程度はかすり傷。あなたなら、たやすいはずだろう。真の聖女であれば、の話だが」

サラはとっさにステージ下のブレスレットを見たが、取りにいけばその力で治療していたと認めることになる。

インペラ宰相は悔しげに唇を噛むだけでなにも言えずにおり、困り果てたサラはついに観念した。

「治せません。癒しの力はブレスレットのもので、私は聖女ではありません。申し訳ございません……」

消え入りそうな小声の謝罪はステージに近い貴族から隣へ、また隣へと伝言され、驚きの声があちこちから上がった。