没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

インペラ宰相は立ち上がり、ドアに向けて手を叩いた。

すると扉が片方だけ開いて、おずおずと入場したのは使用人風の青年だ。

彼に気づいた貴族たちは目を見開き、悲鳴をあげる婦人もいた。

オデットも両手で口元を覆い、息をのむ。

その青年の顔は殴られたように腫れていて、右のまぶたは青紫色に変色しているからだ。

(すごく痛そう。一体なにがあったの?)

特に女性たちはショックを受けた顔をしているというのに、インペラ宰相が笑いながら事もなげに言う。

「ご心配なく、あれは我が家の馬番です。余興に協力させるために怪我をさせただけです」

インペラ宰相はサラを連れてステージに上がる。

ピアノ演奏がやんだので、遠くの席の者たちも余興の始まりに気づいたようだ。

「皆さん、お食事中に失礼いたしますぞ。この者の怪我をサラ様が癒しの力で治してくださいます。ぜひご注目を」

貴族たちが期待の眼差しを向けている。

よく見ようとして立ち上がる者もいる中で、サラが左手を頭上に掲げた。

その手には、不思議な幾何学模様が編み込まれたレースの長手袋がはめられている。