没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~


(薪割りも栗拾いもするわ。でも今はすっごく悲しいから泣かせてほしい……)

オデットが顔をくしゃくしゃにして泣いていたら、「あっ!」とリュカが声をあげて急にオデットに抱きついてきた。

「おねえたんだ。あしょぼ」

どうやら本気の泣き顔が似顔絵に似ていたようで、姉だとわかったらしい。

「う、嬉しい! ここにいられる間、いっぱい遊ぼう。お姉ちゃん、リュカに会うために帰ってきたんだから」

オデットが歓喜してリュカを抱きしめたら、ドア口から遠慮がちに声をかけられた。

「旦那様、皆様、ちょっとよろしいでしょうか……」

生地が薄くなった黒服を着ているのは四十歳の執事、ノーマンだ。

満足に給料を払えないのに代々仕えてきたからと辞めずにいてくれるノーマンは、後ろに来客をひとり連れていた。

誰だろうと一瞬考えてしまったオデットだが、直後にハッとした。

苦笑してノーマンの陰から現れたのはジェラールだ。

「オデット、帰省の第一目的を忘れてもらっては困るよ」

ジェラールがログストン伯爵家を訪ねたのは、オデットを娶りたいという意志を伝えるため。