没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「リュカ、おはよう。おいで。お姉ちゃんと一緒に遊ぼう!」

オデットと同じ栗色の髪と翡翠色の瞳を持ち、ぷっくりと垂れそうなほっぺの愛らしいリュカ。

目に入れても痛くないほど愛しい弟が、オデットを見て固まった。

かと思ったら慌てて母親の背後に隠れ、顔だけ覗かせて知らない人を見るような目を向けてくる。

「誰でしゅか?」

オデットはハンマーで頭をぶん殴られたようなショックを受けた。

「リュカに、忘れられちゃった……」

がっくりとうなだれた娘を見て父が慌てた。

綿の襟つきのシャツに母が編んだ毛糸のベストを着た父は四十五歳で、垂れた目元がオデットに似ている。

優しくて少し頼りない父は、娘に駆け寄るとその肩に手を置いた。

「一年半も王都で頑張ってくれてオデットには感謝しているよ。リュカにも毎日、食事ができるのはお姉ちゃんのおかげだと話している。オデットを忘れないように似顔絵も描いてリュカの部屋に貼っておいたのだが、おかしいな」

「私の似顔絵?」

貴族ならばお抱えの画家がいて肖像画を飾るものだろうが、ログストン家にそのような余裕はない。