没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~

「これは母上の形見であり、兄上の形見でもある。自分への戒めとしてこうして肌身離さず持ち歩いているのだ。苦しんで亡くなったか……。遺書がなかったゆえ、わしのせいではないと言ってくれる者もいたが、やはりそうか」

重たいため息が国王の膝に落ちる。

「わしの方が王の才覚があると周囲におだてられ、弟の身分をわきまえずに王位を望んでしまったのだ。わしが身を引いていれば兄上は今も生きていた。自死へと追い込んだわしへの恨みは相当深いだろう」

オデットとジェラールはかける言葉がなく、顔を見合わせた。

「お前たちの結婚についてはしばらく考えさせてくれ。情けないことだが未だに兄の死を消化できずにいるんだ」

話を締めくくられて退室したふたりは外へ出た。

王城の秋の風景を見せたいとジェラールが言ったからだ。

城壁内は広大で、西側のイチョウ並木の前をゆっくりと散策する。

イチョウは半分ほど葉を落とし、黄色い絨毯が伸びていた。

周囲に人の姿はなくデート気分で秋を楽しみたいところだが、オデットもジェラールも浮かない顔をしている。